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5.3.2.2 「サイエンス」誌昭和59年10月26日号の論文 「サイエンス」誌昭和59年10月26日号のギャロ博士らの論文「エイズ関連症候群の患者及びエイズの危険のある健康な男性同性愛者の唾液中に存するHTLV−V」は,エイズ患者4名,ARC患者10名及び健康な男性同性愛者6名から採取した末梢血白血球と唾液を資料とした検査の結果,(1)エイズ患者及びARC患者の全員と健康な男性同性愛者6名中4名について,HTLV−Vの構成蛋白に対する抗体の存在が判明し,かつてHTLV−Vに曝されたことが証明されたこと,(2)エイズ患者1名,ARC患者4名及び抗体陽性である健康な男性同性愛者2名の末梢血液から感染性のウイルスが分離されたこと,(3)ARC患者4名及び抗体陽性である健康な男性同性愛者4名の唾液からもHTLV−Vが分離されたことなどを報告したものである。 検察官は,「昭和59年11月ころまでには,ウイルス分離の技術的困難性にもかかわらずHTLV−V/LAV抗体陽性者から極めて高率にウイルスが分離されることが疫学的・血清学的データによって明らかとなっていた」と主張するところ,そこで指摘されているウイルス分離の具体的な報告は,個別症例における報告以外には,昭和58年段階の「多発性リンパ節病変を起こしているLAV抗体陽性者6名のうち4名からLAVを分離した」旨のモンタニエ博士らの報告とこの論文のデータがあるのみであり,これもまた,検察官の主張において重要な位置付けを占めているものと解される。 しかしながら,この論文に関する検察官の主張についても,次のとおりの問題がある。 (1) 第1に,この論文の研究も,HTLV−V抗体陽性者のウイルス分離率を調べることを直接の目的としたものとは解されない。ギャロ博士の高松宮妃シンポジウムの発表においても,HTLV−Vの分離率について,「プレエイズ患者の90%以上,エイズ患者の50%以上」という最新のデータを紹介しながら,「抗体陽性者一般からの分離率」については何も触れていない上,この論文についても,文献86として「多少予期しないことであったが,プレエイズ患者や健康な男性同性愛者の唾液からもHTLV−Vを分離できた」旨を述べた箇所で引用されているにとどまっているのである。そもそもウイルス分離率を研究するのであれば,対象の範囲や母数が大きいほど意味があると考えられるが,ギャロ博士らのグループは,昭和59年5月に発表した前記5.2の4点論文において既に48症例からHTLV−Vを分離していたのであるから,この時点ではこの論文の研究対象者より遙かに多くの抗体陽性者からのウイルス分離データを有していたと考えられる。 (2) 第2に,この論文の研究においてもまた,エイズあるいはARCの症状のない抗体陽性の血友病患者が対象として含まれていないことは,その記載自体から明らかである。したがって,こうした血友病患者について,この論文のウイルス分離率の数字が直ちに妥当するとは想定し難い。そして,この点についてもまた,後記5.3.2.4の「ブラッド」論文や5.3.2.5の「JAMA」論文の内容に照らせば,昭和59年後半ないし昭和60年初め当時の著者らの考えは,本論文のデータを血友病患者に直ちに当てはめることはできないというものであったと認めざるを得ない。 ちなみに,本件当時の我が国においては,抗体陽性者からのウイルス分離はいまだ成功していなかったものであり,昭和62年発行の「Acta haematology」誌77号掲載の昭和61年3月26日受領と記載された高月清医師らの英語論文は,栗村敬医師らの昭和60年の英語論文を引用して,「日本においては血友病患者のLAV/HTLV−Vの出現率が低い」ことを前提とした考察を加え,また,山田兼雄医師は,昭和62年の講演において,「栗村先生が日本におけるウイルス検出率が非常に低く,アメリカで高いのはなぜだろうと述べているが,それはおそらく栗村先生のところに送られてくる検体は,ほとんど全部血友病患者のものであるためと思われる。」などと述べていたのであって,本件当時よりかなり後の時期においても,我が国においては,血友病患者の抗体陽性者からのウイルス分離率は低いというデータが存在していたことが認められる。
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