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第7 被告人の本件刑事責任

7.1 本件における過失の判断基準
 まず,刑法上の過失の要件として注意義務の内容を検討する場合には,一般通常人の注意能力を基準にしてこれを検討すべきものと解される。そして,ここでいう「一般通常人」とは,行為者の属性(医師という職業やその専門分野等)によって類型化されるものであると考えられるから,本件においては,通常の血友病専門医の注意能力がその基準となるものと考えられる。本件で問題となっているのは,前記6.1のような特徴を有する医療行為の選択の判断であることに照らせば,本件において刑事責任が問われるのは,通常の血友病専門医が本件当時の被告人の立場に置かれれば,およそそのような判断はしないはずであるのに,利益に比して危険の大きい医療行為を選択してしまったような場合であると考えられる。
 そして,本件公訴事実において検察官が主張する「血友病患者の出血が生命に対する切迫した危険がないものであるときは外国由来の非加熱製剤の投与を控える」という治療方針を,本件当時の被告人が採っていなかったことは明らかであるが,他方において,我が国のほとんどの血友病専門医もまた,そのような治療方針を採用していなかったことが明らかである。したがって,このような事情にもかかわらず,本件当時の被告人の立場に置かれたならば,通常の血友病専門医が外国由来の非加熱製剤を投与しなかったであろうと考えられるような根拠があるのかどうかが検討されなければならない。

7.2 松田医師のいわゆる「進言」について
 松田医師は,昭和59年9月ないし10月ころ,被告人に対し,非加熱製剤の使用中止と加熱製剤の早期導入又はクリオ製剤への転換を提言したと供述した。
 こうした事実があったこと自体は認められるが,この「進言」の時期やその前後の事情との関係,さらには松田医師がその後は全く同様の行動に出ておらず,他の血友病専門医に対して非加熱製剤使用への懸念を口にしたこともないこと等に照らすと,これが松田医師の強固な考えや切迫した危機意識に基づいたものであったと位置付けることはできず,非血友病専門医の立場から,主に非加熱製剤のリスクの面を考慮した思い付きでなされたものであったとみざるを得ない。

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