薬害エイズ事件で、血友病の男性患者にエイズウイルス(HIV)に汚染された輸入非加熱血液製剤を投与し、エイズで死亡させたとして業務上過失致死罪に問われた元帝京大副学長安部英被告(84)に東京地裁は28日、無罪(求刑禁固3年)の判決を言い渡した。検察側は控訴する方針。
製薬会社、旧厚生省、専門医の複合過失が引き起こしたとされる薬害。旧ミドリ十字の歴代3社長には昨年2月、大阪地裁が禁固2年―1年4月の実刑を言い渡したが、今回の判決は、東京地裁で行われている元厚生省生物製剤課長松村明仁被告(59)の9月の判決にも影響を与えそうだ。
判決理由で永井敏雄裁判長は血友病治療を取り巻く当時の状況について「非加熱製剤で高い治療効果を挙げることと、エイズの予防に万全を期すことは両立し難い関係にあり、最先端の専門家がウイルス学的な解明をし、治療医が具体的な対処方策を検討していた」と分析。
事実認定に当たっては「全体を見渡すマクロ的視点と併せて、時と場所が指定されている一つの局面を細密に検討する視点が要請され、当時公表されていた論文など確度の高い客観的な資料を重視すべきだ」と指摘した。
その上で安部被告の立場を「第一内科長兼血液研究室主宰者として指導的立場にあり、非加熱製剤の投与が被告の意向であることは明らか」とした。
1997年3月の初公判で、安部被告は「輸入非加熱血液製剤の投与は医学界の定説だった」と全面無罪を主張。血友病治療の権威と言われた医師の責任をめぐり、検察側、弁護側双方が激しい論争を繰り広げてきた。
検察側は「論文やシンポジウムなどでエイズの最新情報を得ていた安部被告は、遅くとも84年11月には非加熱製剤の危険性を予見できたのに、何の安全措置も取らなかった」と指摘。当時の部下らが法廷で安部被告と相対し、検察側主張に沿った証言をした。
一方、弁護側は「安部被告に特別な知識はなく、他の専門医と同様に非加熱製剤の危険性を十分知らなかった」とした上で、「(エイズに安全な)クリオ製剤は供給も治療効果も不十分で、エイズの問題を考慮しても非加熱製剤を治療に使うメリットが大きかった」と反論した。
安部被告は東大講師から帝京大教授に迎えられ、血友病治療の中心的な存在になった。