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5.6 HIV感染症の治療の見通し 被告人らが本件当時ころに発表していた論文等の記載からは,HIV感染者の免疫異常の改善,治療について,当時試行していた治療にかなりの効果があると認識し,その予後に関しても相当に楽観的な見通しを持っていたこと,近い将来,HIVに対するワクチンが開発されることに大きな期待を持っていたことなどが認められる。 もとより現在から振り返れば,このような見通しは楽観的に過ぎたものであったことが明らかであるし,当時においても,将来の治療法確立の見通しなどということはその性質上全く不確実なものであるから,そのような楽観的な見通しに安易に頼ってHIV感染の危険を軽視することが正当化されるものではなかった。しかし,当時の実態としては,ギャロ博士らのHTLV−V分離の発表が,その本態が不明であるため有効な治療法や予防法がないと恐れられていたエイズについて,今後はその研究が急速に進歩するだろうという期待を多くの臨床医に抱かせるものであったことも事実であった。 5.7 本件における結果予見可能性のまとめ 以上のとおり,本件における被告人の結果予見可能性については,本件公訴事実をそのまま認めることはできない。すなわち,非加熱製剤の投与によって,血友病患者をHIVに感染させる危険性は予見し得たといえるが,それが「高い確率」であったとは客観的に認め難いし,HIV感染者について「その多く」がエイズを発症するということは,現在の知見においてはそのように認められようが,本件当時においてそのような結果を予見することが可能であったとは認められない。 しかし,他方において,こうした「高い」,「多く」といったことを別にすれば,本件当時においても,外国由来の非加熱製剤の投与によって,血友病患者を「HIVに感染させた上,エイズを発症させてこれを死亡させ得る」ことは予見し得たといえるし,被告人自身が,現実にそのような危険性の認識は有していたものと認められる。換言すれば,本件において,被告人は,結果発生の危険がないと判断したわけではなく,結果発生の危険はあるが,その可能性は低いと判断したものと認められる。 したがって,本件においては,関係証拠により認められる結果予見可能性の程度を前提として,なお被告人に結果回避義務が認められるかどうかが,過失責任の成否を決定することになると考えられる。そこで,以下においては,このような観点から,さらに検討を進めることとする。
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