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第8 結語 本件刑事訴訟は,特定の被害者1名の関係で業務上過失致死罪が成立するか否かを直接の検討対象とするものであるが,その審理過程においては,当事者双方による立証活動の結果,法廷という公開の場に,血友病治療とエイズをめぐる広範な証拠関係が上程されてきた。そこには,刑事事件という枠組みを離れても,未曾有の疾病に直面した場合の対処方策等について,種々の示唆的な事情が現れている。この間の事実経過を正確に跡付けた上で,さまざまな角度から検証を加えていくことは,今後の医療の在り方等を考える上でも意義があるものといえよう。 血友病治療の過程において,被害者がエイズに罹患して死亡するに至ったという本件の結果が,誠に悲惨で重大であることは,何人にも異論のないところであろう。また,一連の事態に現れた被告人の言動をみると,血友病治療の進歩やこれに関連する研究の発展を真摯に追求していたとうかがわせる側面がある一方で,自らの権力を誇示していたのではないか,その権威を守るため策を巡らせていたのではないかなどと傍目には映る側面が存在したことも否定できない。しかし,本件は,エイズに関するウイルス学の先端的な知見が血友病の治療という極めて専門性の高い臨床現場に反映されていく過程を対象としている。科学の先端分野に関わる領域であるだけに,そこに現れる問題は,いずれも複雑で込み入っており,多様な側面をもっていた。これらの問題について的確な評価を下すためには,対象の特性を踏まえ,本件公訴事実にとって本質的な事項とそうでない事項とを見極めた上で,均衡のとれた考察をすることが要請されている。 業務上過失致死罪は,開かれた構成要件をもつともいわれる過失犯の一つであり,故意犯と対比するとその成立範囲が周辺ではやや漠としているところがあるが,同罪についても,長年にわたって積み重ねられてきた判例学説があり,犯罪の成立範囲を画する外延はおのずから存在する。生じた結果が悲惨で重大であることや,被告人に特徴的な言動があることなどから,処罰の要請を考慮するのあまり,この外延を便宜的に動かすようなことがあってはならないであろう。そのような観点から,関係各証拠に基づき,被告人の刑事責任について具体的に検討した結果は,これまでに説示してきたとおりであり,本件公訴事実については,犯罪の証明がないものといわざるを得ない。 よって,刑事訴訟法336条により無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決する。
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