[産経新聞フロントページ | 産経新聞インデックス]

2001.03.17
薬害エイズ事件・安部被告 28日判決
「医」の過失 どう判断

 医師、行政、製薬会社の三者の複合的な過失によって引き起こされたとされる薬害エイズ事件で、血友病の男性患者にHIV(エイズウイルス)が混入した非加熱血液製剤を投与して男性患者を死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われ、禁固三年を求刑されている元帝京大副学長、安部英被告(八四)に対する判決が三月二十八日午前、東京地裁(永井俊雄裁判長)で言い渡される。千四百人以上が感染し、五百人以上が死亡したとされている薬害エイズ。裁判所は「医」の過失をどう判断するのか。公判の争点と検察側、弁護側の攻防をまとめた。

 旧厚生省エイズ研究班の初代班長、日本血液学会会長−などを歴任、血友病治療の最高権威で絶大な力を持っていたとされる安部被告側は平成九年三月の初公判以来、五十二回にわたって重ねてきた公判で、一貫して無罪を主張してきた。判決では、男性患者に非加熱製剤を投与した段階での安部被告の危険性の認識、予測、回避について、どう判断するかが最大の焦点となる。

 安部被告の起訴事実は、帝京大病院で第一内科長を務めていた昭和六十年五月から六月にかけて、手首関節内に出血を起こした血友病の男性患者に、非加熱製剤を三回にわたって投与。HIVに感染させて、平成三年十二月に男性患者を死亡させた。

 検察側はエイズに関する多くの文献や研究資料にも触れて、エイズの危険性は十分に認識していたと主張。根拠として、昭和五十九年九月には、米国の専門家のギャロ博士に、患者の血清についてHIV抗体検査を依頼。四十八人のうちほぼ半数の二十三人が陽性結果が出ていたため、危険性は認識していたなどと指摘した。

 安部被告はこうした危険性の認識があったにもかかわらず、安全なクリオ製剤の使用への転換を拒否するなど、「何らの措置も取らなかった」と過失を結論づけた。非加熱製剤の使用を続けたことについては、「自己のメンツや多額の資金援助を受けていた製薬会社の損害にこだわった」と指摘。そのうえで、「医師としての責任感、一片の良心も見いだし得ない」と強く非難した。

 一方の弁護側は、非加熱製剤の投与で患者を死亡させたとする時期は、「血友病エイズの問題を何とか理解しようとしていた時期だった」などと反論。明確な危険性の認識はなかったと主張した。業務上過失致死罪を問ううえで、前提となる業務上の職務権限についても、「病院内での治療上の指揮監督権限はなかった」と強調。非加熱製剤から安全なクリオ製剤への転換についても、「エイズ問題を考慮しても患者の痛みを緩和させる非加熱製剤の治療メリットの方が大きかった。クリオ製剤は供給も治療効果も不十分だった」と製剤の転換を怠ったとする主張に反論してきた。


 産経新聞購読お申し込み  メールでのお問い合わせ
産経Webに掲載されている記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は産経新聞社に帰属します。(産業経済新聞社・産經・サンケイ)
Copyright 2001 The Sankei Shimbun. All rights reserved.