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薬害エイズ 阿部元帝京大副学長判決要旨毎日の視点へ毎日の視点
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6.4 諸外国における血友病治療方針

6.4.1 米国
 NHF医学諮問委員会は,昭和59年10月,エイズと血友病治療に関する勧告を行った。血友病治療医に対する勧告には,新生児,4歳以下の幼児及び過去に非加熱製剤を投与されたことのない血友病A患者等の治療について,クリオ製剤の使用を勧告し,濃縮製剤を扱う者は,エイズに対する防御効果は未だ証明されていないという理解の下で,加熱製剤に変えることを是非とも考慮すべきであると勧告するなどの内容が含まれていたが,他方では,治療を控えることによる危険の方が,治療に伴う危険よりも遥かに勝っているから,出血した際には,担当医師の処方に従い,凝固因子による治療を継続すべきであるともされていた。
 また,上記5.3.4.6のNHFがCDCの協力を得て昭和60年3月に作成・発行した「エイズ最新情報」は,血友病治療について,次のとおり述べていた。
 「血友病者は,医学的に必要であれば,治療を控えてはなりません。現在,第8因子ないし第\因子製剤の使用変更を正当化するだけの確実な証拠はありません。もし早期の治療が控えられると,肢体不自由になったり,生命を脅かすことにもなる出血をもたらす合併症が出るでしょう。」
 「血友病患者では出血よりもエイズの方が死亡率が高いとの指摘があります。血漿製剤の積極的な使用には反対すべきではないでしょうか?」との質問に対し,「絶対に違います。血友病患者の間でのエイズによる死亡率は極めて低いものです。現在,出血による死亡率も同じく極めて低いのは,血漿製剤を適切に集中的に使用していることの直接的な結果です。血漿製剤治療の度合いを減少させても,エイズの率は下がることはないでしょうし,逆に出血による死亡と身体障害の率が上昇することは確かでしょう。」
 「現在まで,クリオ及び新鮮凍結血漿よりも濃縮製剤の方が危険であることを示す明確な証拠はありません。エイズになった血友病患者の大部分は濃縮製剤で治療を受けていますが,重症の血友病患者で他の製品による治療だけを受けていた者の割合はとても少ないので,このような所見は製剤の使用パターンから予測されるところです。エイズと特定の血液製剤又は製造者とを結び付ける証拠がないことに留意すべきです。」

6.4.2 WFHのリオデジャネイロ会議
 昭和59年8月,世界血友病連盟(WFH)は,リオデジャネイロで,医学委員会と総会を開催したが,ここでは,前年のストックホルム総会の「現時点では,血友病の治療のいかなる変更をも勧告すべき証拠は不十分であり,したがって,現在の治療は,担当医師の判断に従って,入手可能なあらゆる血液製剤を使って継続すべきである。」との決議が再確認された。

6.4.3 アトランタ会議直後のWHO勧告
 WHOは,昭和60年4月のアトランタ会議直後,専門家による作業部会を開き,WHOのとるべき処置及び加盟各国のとるべき処置に関する勧告を発表した。加盟各国のとるべき処置には,「血液や血漿を提供しようとする者に関しては,AIDSウイルス抗体のチェックを行い,抗体陽性の例に関しては,本人に知らせるとともに,供血を行わせない。」,「血友病患者に使用する凝固因子製剤に関しては,加熱その他,ウイルスを殺す処置の施された製剤の使用を勧告する。」が挙げられた。

6.5 本件当時の我が国の血友病治療の実態とその理由
 本件当時,成人の軽症でない血友病A患者の通常の出血(本件で問題とされている関節内出血を含む。)を治療する我が国のほとんどの医師は,その原料血漿が外国由来であるか否かにかかわらず,非加熱第8因子製剤の補充療法(自己注射療法を含む。)を行っていた。すなわち,一方では,エイズの危険性が問題とされる以前から一貫して,感染の危険を重視する等の理由から,外国由来の非加熱製剤を使用しないという治療方針を維持していた医師も存在した。しかし,多数の血友病患者が通院していた医療施設である,東京医科大学病院,荻窪病院,聖マリアンナ医科大学病院,神奈川県立こども医療センター,静岡県立こども病院,名古屋大学医学部付属病院及びその関連病院,奈良県立医科大学病院等においては,いずれも加熱第8因子製剤が供給されるようになるまで,その原料血漿が外国由来であるか否かにかかわらず,非加熱第8因子製剤の投与が継続されていた。また,昭和60年には,我が国の主要な血友病治療施設においても,次第に患者のHIV抗体検査の結果が判明するようになったが,加熱第8因子製剤の治験薬の余分があったために,結果的には抗体陰性と判明した患者にその後に非加熱第8因子製剤を処方することはなかったという医師も存したが,その医師も,その方針を当直医にまで徹底したわけではなかった。他方において,抗体陰性者に治験薬を投与することを検討はしたものの,量的に不可能であるという理由で断念して非加熱第8因子製剤の投与を継続した医師も存した。

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