安部被告に無罪判決「なぜだ」無念の傍聴席
「なぜだ」「どうして」――。薬害エイズ事件で業務上過失致死罪に問われた元帝京大副学長・安部英被告(84)に二十八日午前、「無罪」が言い渡された瞬間、東京地裁一〇四号法廷の満席の傍聴席からは、うめきにも似た叫び声が交錯した。裁判長に深々と、そして静かに一礼する安部医師。対照的に、被害者の遺族らには、やり切れない表情で涙を浮かべる姿も見られた。一九九七年三月の初公判からまる四年。医師の過失を問うことの難しさが浮き彫りになった。
安部医師は、黒のスーツに薄いグリーンのネクタイ姿で入廷し、永井敏雄裁判長に一礼して着席した。裁判長が開廷を宣言し、「被告人は証言台へ」と促すと、安部医師はスーツのボタンをはめ、両手を指先まで伸ばして直立した。
「被告人は無罪」。緊張感が漂う法廷に、ゆっくりとした裁判長の声が響くと、傍聴席からは「えーっ」というどよめきや「なぜだ」という叫びが飛び交った。安部医師は裁判長と左右の陪席裁判官に一人ずつ、深々と頭を下げた。
無念さをにじませる傍聴席の被害者ら。こわばった表情で、裁判長が朗読する判決理由を書き写す検察官。その中で、安部医師は終始落ち着いた様子で、時折、目を閉じて判決文の読み上げに聞き入っていた。
被告席で判決理由の朗読が続く間、安部医師は伏し目がちに表情をほとんど変えない。被害者の遺族は、厳しい表情で裁判長や安部医師を凝視した。
薬害エイズ被害者の川田龍平さん(25)の母親、悦子さん(52)は傍聴席で腕を組み、時折、メモを取りながら、納得出来ない様子で険しい目線を裁判長に投げかけていた。
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