


「実刑」どよめく法廷 立ち尽くす元3社長



「被害者はならくの底に落とされ、壮絶な闘病生活を送ったあげく力尽きた」。旧ミドリ十字の歴代社長三人が業務上過失致死罪に問われた二十四日の薬害エイズ事件判決公判。企業トップの責任を断罪し、全員実刑の厳しい判決を出した大阪地裁は、被害者の心情を「筆舌に尽くしがたい苦悩」と表現した。
しかし、「産・官・医」による複合薬害の構図がすべて判決で解き明かされたわけではない。薬害エイズ訴訟の和解成立から四年たった今も、医師、厚生省の責任を問う裁判が東京地裁で続く。被害者の妻は語った。「どうして死ななければならなかったのか。私の『なぜ』は消えない」――。
大阪地裁二〇一号法廷。午前十時二分、被告席に立ち並んだ歴代社長の松下廉蔵(79)、須山忠和(72)、川野武彦(69)の三被告に、三好幹夫裁判長が実刑判決を言い渡すと、一瞬、間をおいて、傍聴席からどよめきが漏れた。
身じろぎもせず、裁判長を見つめ、じっと判決に聞き入る松下、川野両被告。対照的に須山被告は時折、顔をゆがめ、落ち着きなく弁護人席や天井に目をやった。
三好裁判長は淡々と判決理由を読み上げる。
「人命を救うべき最高責任者としての自覚を欠いた行為だった」
薬務行政のトップ、厚生省薬務局長をかつて務めた松下被告は、無表情で正面を見据え続けた。
「医学研究者としての良識に反する行為というほかない」
同社のエイズ対策のカギを握っていた須山被告は、厳しい判決に、顔を左右に振るなど平静を失った様子。
「虚偽宣伝との整合性を図るため、製造記録の改ざんを指示した」
HIV訴訟和解の直前、「加害責任」を認めて原告団に土下座して謝った川野被告は、目を伏せ、不安そうな表情でうなだれた。
◆薬害根絶に役立つ判決 識者の評価
薬害問題に詳しい片平洌彦・東京医科歯科大助教授(臨床薬理学)の話「検察の主張に沿った判決で、製薬会社首脳の責任を明らかにした点で妥当といえる。これまでの薬害訴訟では製薬会社首脳の刑事責任があいまいにされており、その意味で、今後の薬害根絶に役立つ判決だ。ただ、薬害について、製薬会社が『第一次的かつ最終的な責任を負う』としているのは疑問。薬事法に基づく国の責任も製薬会社と同様、極めて大きいと思う。薬害根絶のためには、産・官・学(医)それぞれが、協力し合わなければならない」
ジャーナリスト・櫻井よしこさんの話「有罪は当然であり、実刑となったことは評価できる。判決は安部ルートや厚生省ルートにも影響を与えると思う。しかし、裁判そのものに、官・業・医の癒着の構造が生み出した薬害エイズ事件のわい小化が見られる。ミドリ十字は、加熱製剤承認後も非加熱製剤の出荷を停止しなかっただけでなく、非加熱製剤が引き続き使えるよう各支店に加熱製剤の枠を設けるなど、極めて悪質。彼らは加熱製剤で不利にならないよう、社として厚生省やエイズ研究班の専門家に働きかけると八三年に決定したが、どう働きかけたかは全然解明されなかった」
(2月24日)

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