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6.6 AIDS調査検討委員会 AIDS調査検討委員会は,発足当初,血友病専門医は委員に含まれていなかったが,帝京大1号・2号症例等の検討を契機として,血友病専門医2名が委員に加わった。しかし,昭和60年8月に加熱第8因子製剤が供給されるまで,非加熱第8因子製剤の使用中止などが討議されることはなかったし,また,加熱第\因子製剤の承認は最も早いものが同年12月であったが,これが供給される前に非加熱第\因子製剤の使用中止が討議された形跡もない。 6.7 我が国における国内血の原料不足問題 本件当時,仮に被告人が,血友病A患者の出血の大部分に対し,国内血由来のクリオ製剤を用いるという方針に転換することを考えた場合に,それが現実に可能なものであったか,また,当時の被告人の立場において,そのことを認識することが期待できたかも問題である。 検察官は,(1)本件当時,帝京大学病院第一内科において,血友病A患者の生命の危険にかかわらない出血につき,非加熱第8因子製剤に代えてクリオ製剤による補充療法を実施するために必要なクリオ製剤は,ミドリ十字及び日薬の実際の在庫量のみをもってしても対応可能であった,(2)さらに,ミドリ十字,日薬及び日赤の製造能力に照らし,また,献血の増加やFFP(新鮮凍結血漿)の製造に用いられていた血漿の一部を凍結クリオの原料に回すことなどによって原料を確保すれば,全国の医療機関におけるクリオ製剤の需要(当時の我が国における非加熱第8因子製剤の年間供給量である約1億単位の3分の1)にも対応することが可能であった旨を主張している。 しかし,(1)については,帝京大学病院のみがクリオ転換をし,他の医療施設は従来どおり外国由来の非加熱製剤を継続するということが現実的にあり得たと考えられるかが疑問である。検察官の主張する治療方針を採用することは,自己注射療法を中止し,治療の利便性を大きく後退させる大転換であって,不便を被る患者やその家族,さらには病院スタッフに対して,当然にその理由,すなわち外国由来の非加熱製剤によるエイズ感染のリスクが非加熱製剤やそれを用いた自己注射療法のベネフィットを上回ることを説明しなければならないと考えられる。そして,それが血友病治療医として我が国の権威者であり,非加熱製剤による自己注射療法を中心的立場で推進してきた被告人の治療方針の大転換であることからすると,そうした方針転換が帝京大学病院で行われた事実やその理由に関する情報は,他の医療施設やその患者らにも伝わるであろうと推測される。他方,本件において被告人に過失が認められるのは,通常の血友病専門医が本件当時の被告人の立場に置かれていれば,当然に非加熱製剤の投与を中止してクリオ製剤等の代替治療に切り替えたであろうと認められる場合であり,換言すれば,通常の血友病専門医が帝京大学病院の特別な情報を知れば,そのような治療方針転換を当然に行っていたと認められる場合であると考えられるから,結局,ほとんどの血友病専門医がクリオ製剤に転換するということになり,全国的な需要の殺到に見合うほどにクリオ製剤が供給可能であるのかが問題とならざるを得ないように思われる。しかも,本件訴訟においては,検察官自身が,被告人の治療方針転換は,我が国の血友病治療全体に影響を与えるものであったと論じているのである。したがって,結果回避可能性の点についてのみ,帝京大学病院の患者が転換する分のクリオ製剤は確保可能であったからこれが認められるという検察官の主張は,余りに便宜的であるとともに,当時の血友病治療の現実から乖離しているのではないかという疑問を払拭し難い。 次に,(2)については,そこで前提とされているクリオ製剤の製造能力自体も,現実の本件当時の製造量とは著しい乖離があり,机上における推論という性格は否定できないのではないかという疑問がある。また,クリオ製剤に転換した場合に,全国の医療機関におけるクリオ製剤の需要が,当時の我が国における非加熱第8因子製剤の現実の年間供給量の3分の1で済むという主張にも同様の疑問がある。 さらに,本件当時の客観的状況に照らせば,献血の増加やFFP製造用の血漿の一部を凍結クリオの原料に回すことなどによる原料確保が可能であったか否かは極めて疑わしい。当時のFFPは,その需要が著しく増加し,各方面から使用を抑制すべきであると指摘されていながら,それが実現できないという状況にあったものであり,当時の文献の記載に照らしても,その製造に用いられていた血漿を凍結クリオの原料に回すためには,医療機関に理解を求め,節約を懇請することから始めなければならないのが現実であった。また,献血量の増加についても,本件当時における献血の伸び率は鈍化しており,それが増加することは難しいという状況であった。こうした現実にもかかわらず,本件当時から十数年が経過し,多数の血友病患者らのHIV感染が大きな社会問題となってから得られた日赤関係者の供述,すなわち「国,地方公共団体,日赤が目標値を定めてそれぞれ献血推進に努力すれば,あえて言うならば一割程度の献血増は考えられたと思う。」などといった供述に依拠して,現実にそのような献血量の増加が可能であったとすることは,刑事裁判における事実の認定としては,いかにも心許ないというべきであり,また,本件当時の血友病専門医において,そのようなことが認識可能であったという根拠になるとも考えられない。
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