[大観小観]
▼「ミドリ十字の関係者は有罪判決なのに」と菅直人民主党幹事長が驚いている。薬害エイズ事件で、業務上過失責任を問われた安倍英・帝京大学元副学長にの無罪判決を下した東京地裁の永井敏夫裁判長は「処罰を求める声にこたえようとするあまり、罰に問う範囲を便宜的に動かすことがあってはならない」と言っている
▼
固定された法律と、激動する現実社会の間で、法の適用は常に時代に合わせざるを得ないが、程度問題だということだろう。裁判官にプレッシャーをかけるには傍聴席を満員にすること、と弁護士の中で半ば公然とささやかれている。圧力に弱い裁判官を見て、かねて苦々しく思っていたのかもしれない
▼
児島惟謙といえば、伊藤博文、山県有朋、井上馨、陸奥宗光らきら星のような明治の元老、高官らがロシア皇太子傷害犯を死刑にしろという要求をはねつけて、司法権の独立を守ったことで知られている。ロシアの脅威は強く、豪放な西郷従道内相が「法は国家を破壊するものか」「天皇陛下の思し召しに反する」とまで説いたが、児島は「司法官の関知するところではない。権限と職責の分立するのが立憲政治」と言い張った
▼
当時大審院の判事は七人。政府はそっくり味方にし、慌てた児島が四人の説得に成功するなど、腰の定まらない裁判官がそのころから多かったらしい。永井裁判長は、法文を厳格に解釈する児島の考えを好むようだが、政府に諮問される第一人者の責任を、町医者の尺度に合わせるようでは児島どころか、平均以下の判事かもしれない。
戀[to menupage]