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5.3.2.3 昭和59年11月の高松宮妃シンポジウムのギャロ博士の発表 ギャロ博士は,高松宮妃シンポジウムにおける発表の「コファクター」の項で,次のように述べている。 「エイズを引き起こすに必要な他の要因はあるか? ある疾患に原因として関与するものとして,あまりにも多くのコファクターが示唆される場合には,通常,私たちは,主たる原因にほとんど気を留めなくなる。私たちの考えでは,十分なHTLV−Vが,ある個人の血液中に入れば,多分,当該個人は感染するであろう。感染者が疾病を発病するパーセンテージは分からないが,ブラットナー,ゴダートとその共同研究者は,1年当たり約6%が疾病を発症すると見積もっている。もちろん,この数字は大変大きな数字である。他の因子に感染すると,T細胞が活性化されることにより,HTLV−Vに感染したT細胞の数が増え,DNAの合成が開始される。この意味で,感染の繰り返しは発症のコファクターである可能性がある。」 検察官は,論告要旨において,この部分を「ギャロ博士が,HTLV−V感染者が毎年約6%の割合でエイズを発症すると想定されていることを指摘」したものであるなどとして引用しているが,この主張もそのまま採用することはできない。 そもそも,このギャロ博士の発表中の「約6%が疾病を発症すると見積もっている」については,データの典拠が不明である。ちなみに,ブラットナー博士及びゴダート博士は,昭和59年9月のランセット論文の共著者でもあり,このデータを(いささか不正確に)引用したものであるとも解されないではないが,ギャロ博士は,「過去に遡った疫学的研究もまた,HTLV−Vがエイズの原因であることを示している。」と述べた箇所では上記論文を参考文献93として引用しているにもかかわらず,この箇所では引用していない。したがって,上記の引用部分のみでは,そこでいうところの「疾病」がエイズのみを指すのか,それともARCなどの関連疾患を含むのかも不明であるといわざるを得ない。また,検察官が「毎年約6%」と訳している箇所については,原文の表現が“about 6 % per year”であるので,上記ランセット論文の「1年当たり6.9%」の原文“6.9 % per year”と統一的に理解するのが相当であること,上記論文について検討したところからすれば,ブラットナー博士やゴダート博士が当時「抗体陽性者が毎年一定の%でエイズ(やARC)を発症する」と考えていたとは想定し難いことに照らし,「1年当たり約6%」と解すべきであると考えられる。しかも,ギャロ博士自身は,この発表の中で「感染者が疾病を発病するパーセンテージは分からない」と述べているのであるから,上記見解にそのまま賛同しているとは考え難い上,感染の繰り返しが発症のコファクターである(つまり,感染を繰り返さなければ発症率は低くなる)可能性があるとも述べている。また,このシンポジウムに出席しギャロ博士の発表を聞いた医師や研究者は少なくなかったと思われるが,他の出席者において,このギャロ博士の発表を聞いたことによってHTLV−V抗体陽性者のエイズ発症率を認識したと認められるような証拠は全く提出されていないのであるから,被告人がこの発表を聞いていたとしても,検察官主張のようにエイズ発症率を認識したはずであると推認する裏付けもないといわざるを得ない。実際,検察側証人の高月医師は,その証言において,このシンポジウムに出席しギャロ博士の発表を聞いていたとし,また,ブラットナー博士は親しい友人であったと供述しているのに,このシンポジウムにおけるギャロ博士のグループの発表の内容に関しては,「抗体のことや陽性率がどうであったというようなことを,数人の人が発表したように記憶している。」と述べるにとどまっている。 5.3.2.4 「ブラッド」誌昭和60年2月号の論文 ギャロ博士は,昭和60年2月発行の「ブラッド」誌67巻3号に掲載された共著論文「濃縮凝固第8因子製剤を受けた血友病者の血清中のヒトT細胞白血病ウイルス反応性抗体」(昭和59年9月10日提出,同年10月8日アクセプト)において,「昭和57年9月から昭和59年4月までの間に実施された調査では,市販の濃縮凝固第8因子製剤で治療を受けたことのある血友病者の74%がHTLV−Vの抗原に対して反応する抗体を有していた。」などのデータを記載し,「抗体の主要な特異性は,HTLV−Vのコアとエンベロープ抗原と推定されているp24とp41に対してであると思われ,このことは濃縮凝固第8因子製剤はHTLV−Vのp24及びp41抗原を伝播しうることを示唆している。」としながら,「しかし,濃縮凝固因子製剤中に感染力を有するレトロウイルスが存在するかどうか,そしてスクリーニング及びウイルス中和化の方法の有効性については,今後の決定に待たなければならない。」と述べている。 すなわち,ギャロ博士らのグループは,昭和59年9月の段階では,濃縮製剤中に感染力があるレトロウイルスが存在するかどうかについても不明であると考えていたことが認められる。
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