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薬害エイズ 阿部元帝京大副学長判決要旨毎日の視点へ毎日の視点
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5.3 「HIV抗体陽性の意味」等

5.3.1 問題の所在
 本件における被告人の結果予見可能性に関する最大の争点は,被告人がギャロ博士に依頼して昭和59年9月ころに入手した帝京大学病院血友病患者48名のHIV(HTLV−V)抗体検査の結果,約半数の23名が陽性であったという,関係各証拠により明らかに認められる事実の意味付けをめぐるものである。すなわち,検察官は,HIVは,その発見当初から,感染を受けた個体が持続感染した状態になり,体内においてウイルスと抗体が共存するものと想定されていた上,昭和59年11月ころまでに明らかとなった疫学的・血清学的データ等は,HIVの感染を受けた個体では,免疫応答によってウイルスが排除されず,抗体とウイルスが共存し,抗体陽性者がその体内に感染性のあるウイルスを保有していること(ウイルスに持続感染していること)を示すものであったと主張し,また,抗体陽性である男性同性愛者集団を経時的に観察した疫学的データが報告され,抗体陽性者からのエイズ発症率が高率に上っていることが示されていた上,エイズの潜伏期間が数年以上の長期間に及び,しかも時の経過とともに更に長くなるものと認識されていたことから,その後も抗体陽性者からのエイズ発症者が増加することにより,抗体陽性者のエイズ発症率が,最終的には極めて高率に上るものと想定されていたなどと主張している。これに対し,弁護人は,本件当時までの状況下では,HIV抗体陽性の意味は不明であり,抗体陽性者のうち,どの程度の割合の者について生きたウイルスが体内に存在するのか,将来エイズを発症する者がどの程度いるのか,他人にエイズを感染させる危険のある者がどの程度いるのかといった点は,分からなかったなどと主張している。
 この「抗体陽性の意味」をめぐっては,当事者双方の主張の対立自体が,かなり複雑難解なものとなっている。こうした当事者の主張に加え,双方から提出された膨大な文献の記載内容と多数の証人の公判供述の内容にかんがみると,「抗体陽性の意味」に関する本件訴訟の争点は,次のような4つの側面を念頭に置きつつ,多角的に分析していくことが相当であると認められる。すなわち,
(1) エイズ原因ウイルスに対する抗体陽性者は感染性のあるウイルスの現保有者であるか,また,抗体陽性者のうちウイルス現保有者である者の割合はどの程度か(ウイルス現保有に係る側面,抗体陽性の第1の意味)
(2) ウイルスの現保有者は将来にわたってウイルスを保有し続けるか,また,将来にわたってウイルスを保有し続ける者の割合はどの程度か(将来にわたる持続感染に係る側面,抗体陽性の第2の意味)
(3) 抗体陽性者の有する抗体はウイルスの活動(感染,発症等)に対して防御的作用を有するか,また,その防御効果はどの程度か(防御的作用に係る側面,抗体陽性の第3の意味)
(4) 抗体陽性者はエイズを発症するか,また,エイズを発症する者の割合はどの程度か(発症率に係る側面,抗体陽性の第4の意味)
である。そして,これらの前提として,「HTLV−VとLAVが同じウイルスであり,エイズの原因ウイルスであるか」という問題があることはいうまでもない。
 また,上記(1)ないし(4)については,
(5) 血友病患者に見られる抗体陽性の意味が,他のリスクグループ(とりわけ男性同性愛者)におけるそれと同じであるのか異なるのか
(6) 抗体陽性の意味が人種によって異なり得るのか
といった問題があり,さらに,上記(4)に関連するものとして,
(7) 抗体陽性者(あるいはウイルス感染者)のエイズ発症にコファクター(co-factor,「補助因子」,「副要因」などとも訳されるが,以下「コファクター」という。)が関与しているか,また,関与するとすればどの程度か
という問題が関わってくることも,念頭に置いておくことが相当である。
 以下,これらの点に関する内外研究者らの本件当時の認識状況を,関係各証拠に照らして検討していくが,本件において,証拠文献中の記載や証言等を正当に評価するには,証拠関係全体の中でそれらを正確に位置付けることが必要不可欠であると考えられる。そこで,この判決要旨でも,論告・弁論においてとりわけ重視されている研究者の見解,すなわち,ギャロ博士らのグループ,モンタニエ博士らのグループ,エバット博士を含む米国CDC(米国防疫センター)及び我が国の栗村敬医師の各見解については,それぞれ証拠の細部に立ち入った検討結果を示しておくこととする。

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