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5.3.7 AIDS調査検討委員会の見解 昭和59年9月,「エイズが我が国に侵入した場合における情報を的確かつ迅速に把握することによりその流行防止を図る」ことを目的として,厚生省保健医療局感染症対策課の所管するAIDS調査検討委員会が設置され,同年11月には,栗村医師の抗体検査結果や,被告人がギャロ博士に依頼した帝京大学病院の血友病患者のHTLV−V抗体検査(以下「ギャロ検査」という。)結果の情報を得るなどして活動していた。 同委員会の議事要旨,メモ,各委員が本件当時ころ発表していた論文の記載等の関係証拠によれば,栗村医師の抗体検査結果が発表された当初は,委員の間においても,検査方法の信頼性や他の抗体の関与による非特異的反応の可能性など,抗体陽性がウイルス感染を意味するのか自体にも疑問が指摘されていたこと,昭和60年1月ころまでは,HIVがエイズの原因であるという見解自体にも慎重な意見があったこと,同年3月ころの時点でも,エイズあるいはその関連症状を発症していないHIV抗体陽性者からの二次感染に配慮するところまでは,エイズとHIVとの関係やHIV抗体陽性の意味を明確に認識するに至っていなかったこと,同年4月のアトランタ会議に出席した委員から情報がもたらされたことによって,こうした点に関する委員の理解は深まったが,HIV感染者からのエイズ発症率については,同年5月末の時点においても,男性同性愛者では5ないし20%であるが,血友病患者では2%といわれている旨を委員のウイルス学者が紹介するような状況であったことなどが認められる。 5.3.8 木下医師及び松田医師の見解 帝京大学病院第一内科の血液研究室に所属する血友病専門医であった木下忠俊医師(本件当時帝京大学医学部助教授)は,その証言において,ギャロ博士の4点論文を読む前から,レトロウイルスは,いったん感染すると免疫の働きで完全に排除することは不可能であり,抗体が検出されればウイルスも存在するといえることを知っており,上記4点論文を読んで,HTLV−VがT4細胞を宿主細胞として細胞傷害性を有するレトロウイルスであることから,感染者のエイズ発症率が高いと認識したなどと供述した。 しかしながら,この木下医師の供述は,(1)他の血友病専門医の当時の認識のみならず,4点論文を執筆したギャロ博士自身や,モンタニエ博士,シヌシ博士,エバット博士らの当時の認識に比較しても突出しており,専門のウイルス学者でもない木下医師がそのようなことを認識したというのは誠に不自然であって,もとより同医師が当時そのような考えを論文等に発表したことはないこと,(2)その供述内容には,試験管内の観察に基づく「細胞傷害性」を直ちに生体内に当てはめるという飛躍があるが,本件当時においては,世界のHIV研究の最先端にあるウイルス学者の間でも,HIVの生体内における細胞傷害効果の詳細については不明であると考えられていたものと認められること,(3)「ギャロ博士の4点論文に記載された情報によって,HIV感染者のエイズ発症率が高いことが想定された。」旨の木下医師の供述内容は,むしろ本件の捜査段階において,検察官が,当時のウイルス学者の意見であるとして,被告人らに対する取調べで教示していた内容と一致しているが,本件審理においては,そのようなウイルス学者の供述は全く得られなかったものであって,こうした証拠関係及び後記7.3のような木下医師の立場に照らすと,同医師が,自身に対する責任の追及を緩和するため検察官に迎合し,その誘導に沿って安易に供述したのではないかという疑いは払拭できないこと,(4)木下医師が血液研究室の責任者の地位を引き継いだ昭和62年4月以降における本件被害者に対する治療をみても,エイズに関して高い危険認識を有していた医師によるものとは考え難いことなどの点に照らし,そのまま採用することはできない。 また,血液研究室に所属する免疫専門医であった松田重三医師(本件当時帝京大学医学部助教授)は,その証言において,昭和58年初めころ,帝京大学の集談会でウイルス学者の話を聞き,ウイルス学の本を読むなどして,レトロウイルスが免疫応答によって排除されず生涯にわたって持続感染することなどを知った,ギャロ博士の4点論文を読んで,HTLV−Vが持続感染することが分かった,感染者からのエイズ発症率については,第4回血友病シンポジウムのエバット博士の発表を聞き,昭和59年9月のギャロ博士らのランセット論文を読んで,非常に高いことを知って驚いたなどと供述した。 しかし,この松田医師の供述も,(1)木下医師と同様に,その話を聞いたとするウイルス学者を含め,当時の文献から認められるウイルス学者や臨床医の認識に照らして突出しており,不自然であること,(2)松田医師の当時発表した論文からうかがわれる認識にも反すること,(3)松田医師は,昭和60年3月の患者会において,エイズ発症率はごくわずかであるという発言をしていたことなどに照らし,やはりそのまま採用することはできない。
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