薬害エイズ安部英被告に無罪判決 東京地裁
From ... |
 |
|
無罪判決を受け、裁判長の読み上げる判決理由を聴く安部英被告(絵・しみずけいた)
|
2001.03.28
Web posted at: 5:16 PM JST (0816 GMT)
薬害エイズ事件「帝京大ルート」で、エイズウイルス(HIV)の混入した非加熱濃縮血液製剤の投与で30代の男性患者を死亡させたとして業務上過失致死罪に問われた帝京大元副学長・安部英被告(84)に対し、東京地裁の永井敏雄裁判長は28日、無罪の判決を言い渡した。血友病専門医だった元副学長に感染を防がなかった過失があったと位置づけて禁固3年を求刑していた検察側の主張を退け、「エイズによる血友病患者の死亡という結果発生の予見可能性はあったが、その程度は低く、過失があったとはいえない」と述べた。
「官・業・医」の複合的過失と言われ、3ルートで刑事責任が追及された薬害エイズ事件では、製薬会社の責任が問われた「ミドリ十字ルート」で歴代社長3人の過失が認められて実刑判決が宣告されたが、「医」に対する過失は否定された。官僚の不作為が問われた「厚生省ルート」は9月28日に判決が言い渡される。
判決は、「HIVの性質やその抗体陽性の意味については、不明の点が多々存在しており、明確な認識が浸透していたとはいえない」と述べ、遅くとも1984年11月末までに非加熱製剤によるHIV感染の危険性を認識していたとする検察側の主張を退けた。
さらに、当時、ギャロ博士やモンタニエ博士の研究でエイズの解明が目覚ましく進展していたことを認めながらも、「当時、被告は抗体陽性者の多くがエイズを発症すると予見していたとは認められず、非加熱製剤の投与が患者を高い確率でHIVに感染させるものであったという事実も認めがたい」とした。
さらに、被告の刑事責任を認めた関係者の証言は「自らの責任追及を緩和するために検察官に迎合したのではないかという疑いを払しょくしがたいなど問題があり、信用性に欠ける」と批判した。
検察側は、非加熱製剤の代わりに国内血で作るより安全なクリオ製剤を使うことによりHIV感染を回避できた、と主張した。
これに対して判決は、医療行為が刑事責任を問われるケースとして「通常の専門医が被告の立場に置かれればおおよそそのような判断はしないような場合」とする認識を示した。
そのうえで、非加熱製剤にはクリオ製剤と比較して止血効果に優れ、エイズにかかる危険性より治療上のメリットのほうが大きいと判断して当時の大多数の血友病専門医が患者の通常の止血に非加熱製剤を投与していたと認定。「非加熱製剤の投与を原則的に中止しなかったことに結果回避義務違反があったとはいえない」と結論づけた。
弁護側は「安部医師に専門医の意見を左右できることなどありえず、帝京大病院内でも患者の治療方針を主治医らに指示する権限を有していたことはない」と指摘し、より安全とされたクリオ製剤を使うように方針を変更することは安部元副学長にしかできなかったとする検察側主張に反論してきた。
判決は「被告人の職務や血友病治療に抜きんでた学識経験と実績を有すると目されていたことから、過失行為の有無を問題とすることは法律上十分可能」としながらも、「関係証拠に基づき具体的に検討した結果、被告に過失があったとはいえない」という結論に達した。
Copyright
2001 ASAHI. All rights reserved. This material may not be published, broadcast, rewritten, or redistributed.
|